2007年05月03日
北アルプス 針ノ木岳 (2,821m
      写真は「スライドショー」でご覧下さい

 5月3日、連休を利用して35年ぶりに北アルプス「針ノ木岳」に行ってきました。この針ノ木の雪渓には、若い頃何度か山スキーに来ていたことがあり思い出深い山です。昔もここは春スキーで有名なところでしたが、アプローチが長くて登るのに大変だったこともあり訪れる人も少なく、大雪渓を独占して滑走した爽快さは忘れられません。  今回はスキーではなく登山が目的でしたが、山スキーを楽しむ人の多さには驚きました。また装備も進化していて緩んだ雪に半分埋まりながら悪戦苦闘している私を横目でみながら、相当の急斜面をシールでドンドン登っていきます。
・・またスキーの虫がムズムズ!うずいてきました


  【行程】 車>自宅→中央道(豊科IC)→大町市→扇沢(駐車場)


【コースデーター】
 途中写真撮影などの休憩時間が多いので・・・参考程度に
 
到着/出発 標 高
扇沢 7:00 1,421m
鳴沢出会い 7:30 1,542m
大沢小屋 7:50/8:40 1,650m
マヤクボ沢出会い 11:30/12:20 2139m
マヤクボのコル 13:50 2,670m
針ノ木岳 途中断念 14:30 2,821m


朝の爺ケ岳(左)と鹿島槍ケ岳
 大町市に入ると爺ケ岳・鹿島槍ヶ岳など後立山連峰の山稜が出迎えてくれる。
扇沢への良く整備された道路に左折すると、扇沢の谷間からは、針ノ木岳は奥のため見えないが蓮華岳の真っ白な山頂が見えてくる。
6:30 扇沢
 扇沢バスターミナルに着くと、有料駐車場は既に満杯状態。さすがにゴールデンウイーク、殆どが開通したばかりの立山・黒部アルペンルートを訪れる観光客なのだろう。 一番下にある無料駐車場に入り、何とか開きスペースを見つけて駐車する。 ここで準備をしている人はスキー・スノボーなどを持った若い人達が目に付くが、中には山登り風の中高年グループもチラホラ混じっている。 
 準備が終わったグループが次々に出発していくのを横目で見ながら準備を済ませ、入念に車周りをチェックし私も出発する。今日は単独なので、時間にはあまり気を使わなくても良いのだが、忘れものが無い様に厳重にチェックを済ませた。 

鳴沢出会い (後ろが針ノ木雪渓)
トローリーバスゲートの横から登山道に入ると日陰にはまだ雪が残っている。 
足場の悪い雑木林の中を少し歩き ゴー!と音を立てている沢筋に下り沢に沿って登っていく。 明瞭なルートは無く広い沢の中を皆適当にコースを選んで登っているようである。途中近道をしようと思い雪の急斜面を登りはじめたところ、潅木の上に雪がついている場所にぶつかり、一足ごとに腰まで沈んで悪戦苦闘してしまった。
 30分ほど登ると右から大きな雪渓が流れ込んでいる場所に出る。ここが鳴沢出会である。 この辺りまで来るとようやく雪渓の奥に真っ白に輝く針ノ木岳の稜線が見えてくる。
天気も上々、ピッケルにカメラを吊り下げて記念写真を撮る

雪渓下部のデブリ
7:50 大沢小屋に到着

 小屋を横目で見ながら堰堤の上に出ると針ノ木雪渓全体がが見渡せる。 
雪渓のノド辺りには米粒のような人の姿が見えているが、早い人はその更に上のマヤクボ沢下部辺りに取り付いているようだ。 雪渓の下部は凄いデブリで覆われていて色が変わっている。高いところは3m以上あり人の姿がスッポリ隠れるほどだ。

 日が高くなり気温も上昇してきたようだ。 ここで熱いお茶を沸かし朝食用に持ってきたオニギリでゆっくり腹ごしらえをする。 下からはスキーを担いだ人達が続々と登って来るのが見える・・・見える範囲だけで十数人もいるが、まだまだ増えそうな感じだ。

雪の緩んだ雪渓
8:40 緩んだ雪に悪戦苦闘

 食事をしている間に気温がグングン上昇してきた。
インナーを半袖に着替えてデブリの中を上り始めるが、気温の上昇に伴い雪が緩んでいる。 踏み後の無い場所を行くと数歩毎に股まで潜ってしまうため、意識して先行者の踏み後を辿っていくのだが、そこでも足が潜り込んでしまい状況になりペースが遅々として上がらない・・。
 色々工夫して登っていくうちに、固まったデブリの上を歩くほうが歩きやすいことが分かってきた。 但し、雪の塊と塊の境目に踏み込むと片足が潜ったままデブリから落ちることになり、踏み込む場所を慎重に選びながら歩かなくてはならず神経を使う。

バテバテのボーダー
 予想外の苦戦に手間取りながらもようやくノドの辺りまで登る。 
前方を若いボーダーが坪足にアイゼンで登っている。 やはり足が雪に潜ってしまうため悪戦苦闘しているようだ。 デブリの上のコースをとりボーダーの脇を追い越しながら”比較的デブリの上のほうが楽だよ!”と、声をかける。

 ノドから上は徐々に傾斜がきつくなってくる。 デブリも少なくなり一歩一歩足が潜ってしまい体力の消耗が激しい。汗を吹きながら一息入れていれていると、山スキーで登ってきた数名に追い越される。 このあたりは相当な急傾斜なのだが、軽々と登っていく。
・・体力もあるのだろうが、それよりも道具が進化がしているようだ。

11:30 マヤクボ沢出会

 腐った雪に悪戦苦闘し、ようやくマヤクボ沢出会いに着く
ここから、登って来た雪渓を振り返ると、ズバリ岳から続く僚船の向こうに爺ケ岳が姿を見せている。素晴らしい景色だが、爺ケ岳から鹿島槍あたりには怪しい雲が湧き出していて既に日陰に入っている。 
 雪渓の棚の下から若い女の子が姿を見せる。 スキーを担ぎピッケル・アイゼンで黙々と登って来る。 先ほど私を追い越していった山スキーの仲間だろうか・・。
 ここで少し早い昼食にして、少し天気の様子を見る。・・本当は、ここに来るまでにバテバテになってしまい、見上げるようなマヤクボ沢の急登を一気に登る気力がメゲてしまったのだが・・
12:20 マヤクボ沢を直登

 登りがきついマヤクボのコル方面は諦めて、楽な針ノ木峠に変更しようかとも考えたが、予定どうりマヤクボ沢を登る。
 マヤクボ沢を直登していくと、山頂付近は雲が猛烈な勢いで飛んでいる。 出会い辺りから吹き上げてくる風も相当強くなってきた。・・・天気が変わってきた!
一時間もあればマヤクボのコル、そこから30分で山頂だな・・とイメージし、気合を入れなおして登っていく。  コルまでの途中にある棚の直前はこの沢で最も急な登りだ。 足場をしっかり確保し根元まで差し込んだピッケルにすがりながら一歩一歩高度を上げていく。・・少し前を登っている人達もきつそうな感じだ。 

輝く蓮華岳
棚の上部に出ると天候が急変

 標高が2500mを越た辺りから雪が絞まって来た。 風も一段と強くなり、急斜面では耐風姿勢をとらないとヨロケて滑落しそうだ。 突然上のほうから、帽子が風で雪の上を滑ってきて私の50mほど横の窪地で止まった。帽子を拾い棚の上に出てみるが、コルまでの間の広々とした雪上に人影は見えない。相当上のほうから飛ばされてきたものだろう。
 左手を見ると蓮華岳の全貌が見える。 雲が上空を飛んでいくため雪の斜面に写る日差しとの陰影が刻々と変化して素晴らしく綺麗だ。
 この頃から黒部の谷間方面から怪しげな黒雲がグングンと沸いてくる。 遠くで雷の音も聞こえてくる。 昨日も午後から強い雷があったようなので少し不安になってきたが、コルまでは少し登れば出られるので、気合を入れ直して一気に登る。
 途中で男性2名が下ってくるのが見える。 一人は帽子を被っていない・・・拾った帽子を振りながら”帽子!”と叫ぶと、当たりだった様で私の方にトラバースしてきた。 帽子を渡しながら上の様子を聞くと、山頂手前の辺りは完全に凍結していてルートがついていないようだ。 風も強くて、北側から登るのは危くて諦めたようだ。

マヤクボのコル
13:50 マヤクボのコル(雷雲に包まれて)
 コルに着くと、辺りは雲に覆われたように薄暗くなってしまった。 しかも黒部谷から吹きあげてくる風が強くて先端までいくのは危ない。 谷の向こうには立山と剣岳の姿が見えるが、低い雲の影に入っていて時々雷が光っているのが見える。
 先程私を追い越して登っていった若者3人組(塩尻の山スキー同好会の皆さん)と写真を撮る。 暫くすると頭の真上で雷鳴が轟き始めた。同時に辺りが暗くなり霰(アラレ)が横殴りに振り出す。 視界は殆んどなくなり直ぐ近くに雷が落ちて閃光が走る!!
 小ズバリ岳の岩陰にテントを設営していたグループも、慌ててテントにもぐり込んでいる。 我々も急いで岩陰に潜り込んで非難していたが暫らくすると霰が止み明るくなってきた。・・・とりあえず雷雲は通過したようだ。
このままここに閉じ込められては大変なので、この合間に急いで下山する事にする。 スキーなら一気に下れるのだが、私は2時間以上かかるだろうと・・若い人たちが心配してくれる・・・優しい皆さんだ。

針ノ木山頂
14:30 尻セードで下山
 コル直下は、急傾斜なので尻セードで一気に下る!・・・と、思ったのだがザックや三脚が邪魔になったり、深く潜ってしまったりして、とても格好良くは滑れない。 それでも一歩一歩いて降りるよりは早いので、格好は気にせずズルズル滑り下り、マヤクボ沢の出会いまで何とか降りてきた。

 ここからは雪渓を歩くしかなく、雷から逃げなくてはと気持ちばかり焦るが、膝上まで雪の中に潜って幾度も転倒しながら下る。 誰も見ていないからいいようなものだが・・・カッコワルッ!”  
 山スキーの皆さんは、遥か下のノドあたりを下っているのが豆粒のように見える。
雪渓上部で雷に捕まり避難
 ノドの辺りまで下った時、雷雲がまた頭上を被い暗くなってきた。 
そのうちに猛烈な霰が降ってきて全く視界が効かない!!、雪渓の谷間を大きな音と同時に稲妻が斜め横に走る。 雪渓の真ん中にいて危ないので山陰の岩を目指して走る!! 落石の危険があるけれど・・それより雷の方が恐い。 崖下の岩陰の雪を掘りツェルトを被って潜り込んだ。 ・・20〜30分位の間だったと思うが、雷鳴と光線が谷間に響き渡り、生きた心地がしなかった。・・数時間も待っていた感じだった。 
 ツエルトの窓から顔を出して見ると、なんと私の潜り込んだ岩陰は、霰が吹き溜まりのように積り50cm程埋まっていた。 しかも細かい霰はヤッケの間からコロコロと潜り込んできて始末が悪い。 外していた冬用の手袋の中にも、指の先までビッシリ霰が詰まっていた。 雷雲が去り、空が明るくなったので雪渓をゆっくり大沢小屋まで下る。 そこにはテントが数張り有り皆外に出て溜まった霰を払い落としていた。
 ここまで来れば一安心!・・テルモスに残っていた熱いお茶を飲み、林道を一個に駐車場まで下った。

 17:50 駐車蒸着