2005年10月8-9日
北アルプス 三段紅葉の涸沢 (2,350m)
三段紅葉の涸沢

 ”涸沢の紅葉見ずして紅葉を語るなかれ・・”と、言われるほど、ここの紅葉は素晴らしい。 毎年9月下旬から10月初旬にかけて見ごろを迎え、新雪に輝く穂高の岩稜をバックに見られる有名な「三段紅葉」は、スケールといい、鮮やかさといい、訪れた全ての人を魅了させる。
 今回は、10月初旬の三連休を利用し条件が良ければザイテングラードを登り涸沢岳まで登る予定で出かけた。


【上高地までのルート】
相模湖IC→松本IC→(R153号)→沢渡(駐車場)→(バス)→上高地
写真は スライドショー でご覧下さい

【コースデーター】
 途中写真撮影などの休憩時間が多いので・・・参考程度に
 
到着/出発 標 高
上高地バスターミナル  8:00/8:30
1514m
明神 9:20 1545m
徳沢 10:30/11:10 1562m
横尾 13:20/13:40 1610m
本谷橋 14:50 1800m
Sガレ 15:50/16:30 2150m
涸沢 17:15 2350m



八ヶ岳サービスエリアからの虹
10/7
 自宅を車で朝5時に出発し、中央道で一路松本に向かう。 
前日から気になっている台風は、日本海に抜け北上しているようで、関東地方は台風一過となり、少し明るさを増してきた夜空には星が見えていた。
 甲府を過ぎる頃には強い朝日が当たりはじめ、台風一過独特の爽やかな景色が広がったが、南アルプスや八ヶ岳など高い山はまだ雲が纏わりつき中腹までガスガかかっているのがみえる。
 高速道路を快調に飛ばし小淵沢を登っていく。そして標高1000m地点を通過する頃から、先ほど見えたガスの中に入った。 霧雨のような雨交じりだがガスの薄いと部分には所々強い日が差しこんでいる。 そしてカーブを曲がると正面にクッキリと鮮やかな虹が見でている。しかもガスの濃淡があるのか、二重になっているようだ。
 丁度八ヶ岳ICがありそこに車を入れると、もう数人がカメラを構えていた。 早速カメラをもって車か出ると外は予想以上に強い風でガスガ千切れるように流れていく。 滅多にないチャンスとばかり慌てて撮影したが、昨日買ってきたばかりの高級クリーニングクロスを風で飛ばされてしまった。 
 \1600・・・まだ一度も使ってなかったのに!!    

雨の上高地バスターミナル
 塩尻トンネルを抜けると正面にアルプスが見える・・・はずだが、南アルプスと同じで深いガスに包まれている。 悪い予感を覚えながら、地元のラジオに切り替え天気予報を聞くと・・・なんと!”台風一過の後寒気が流れ込み、乗鞍〜上高地は雨、標高の高いところでは今夜から吹雪に変わるので注意するように” と・・言っているではないか・・!!  このまま上高地に行き吹雪き覚悟で涸沢まで登るか、一日行動計画をずらすか決断しなくてはならない。 明日から天気は回復する模様なので・・一日分のロスは惜しいが、今日は実家に泊まって明日から行動する計画に変更だ。

【10/8】
 実家を7時に出て上高地に向かう。 今日の安曇野は快晴だが、北アルプスは昨夜から季節はずれの猛吹雪になったようで、常念のピラミッドもまだ薄い雲に覆われている。 一時間ほどで沢渡に到着したが、3日連休の中日のため観光客の車が多く混雑している。 ようやく停めた駐車場で支度をしている頃から雨が降り出した。 日差しはあるのに結構強く降ってくる・・どうやら山頂付近で降っている雪が飛ばされ雨になっているるようだ。

明神館
 雨具を着込みザックカバーを厳重に着け、バスで上高地バスターミナルに向かう。途中の大正池からの景色も山がガスに包まれてしまって何も見えなかったが、たくさんの人が雨の中もう散策していた。  バスターミナルに着くと雨は益々強くなっていた。 様子見の人達でターミナルの休憩場は一杯だったが、とりあえずここで朝飯を食べてから出発した。 
【明神】 
 河童橋を左手に見ながら雨の中をしばらく歩くと、やがて明神小屋に着く。
この辺りはまだ紅葉には早い様だったが、小屋の前にあるカエデだけが黄色に染まっていてとてもきれいだ。  この辺まで観光客の散策コースになっているため、明神館の中も外も人で一杯、立ち止まって様子を見ただけですぐ徳沢に向かって歩き出した。

徳沢のテント場
【徳沢】
 時折強い日が差したと思えば小雨が降る不思議な雰囲気の森を、徳沢を目指し淡々と歩く。 上高地から横尾までは平坦な散歩道が続くため、泥濘を避けながらやや早いペースで歩く。 途中にある徳本峠への分岐をすぎ一時間ほど歩くと林の中に徳沢の小屋がみえてくる。 その先で林が開けると明るい日差しが眩しいテント場に出る。、ここは北アルプスで最も快適なテント場と言われており環境は最高である。
緑の芝生の広場には色とりどりのテントが張ってある。
 我々もここで小休止する。 時折アルプスから吹き飛ばされてくる小雨が降っているものの、強い日差しが徳沢に振り注いていて、とても清々しい。
 紅葉した大きなブナの気の向こうに見える明神岳は、山頂はガスに覆われておりまだ雪が降っているようだ。・・・初雪か!!
 ここで 40分ほど休憩し、次の目的地である横尾に向かう。  

横尾本谷と屏風岩(左)
【横尾】 
 徳沢を出ると道は梓川の右岸に出る。 左手が開けて梓川の広い河原とガスがかかった明神岳を見ながら快適に歩く。 河原に生えている柳が、やや黄色身を帯び時折指し込んでくる日差しに輝いている。  一時間ほど歩くと切り立った屏風岩が見えてくる、ここが本谷沢への入り口である。
 ここは本谷沢と槍ヶ岳への分岐点の休憩ポイントであり、丁度昼時のため既に多くの登山者が休んでいてベンチも空いていない。・・・良く見ると大半は下山組みのようである。仕方がないので橋を渡り川岸に出て柳の木陰に陣取ってお昼にする。

 雨はすっかりあがって日差しも強くなったが本谷沢の奥はまだ雲に包まれている。
横尾根の山腹を通る登山道は下山してくる登山者が行列をつくっている。・・すごい数だ、登り道が心配!!  
 何人かが我々の前を通りすぎながら ”涸沢は猛吹雪よ!” ”雪で逃げてきたよ!”などと・・ご親切に教えてくれる。

屏風岩と始まったばかりの紅葉
 カップラーメンと持参したオニギリを平らげて出発。
次の休憩地点である本谷橋までは、コースタイムは1時間半だがこの下山組の多さでは・・と少し不安になりながら歩き出す。
 ここから本谷橋までは横尾尾根の脇を登っていくため、道幅が急に狭くなり登山道らしい登り道に変わる。 そして心配したように下山者が10人・20人と固まって降りてくるため、すれ違いの待ち時間が多くなる。 ・・どうやらこの時間帯が下山のピークのようだ。
 高度が上がってくると沢の反対側の屏風岩が圧倒的な迫力で迫ってくる。ここまでくるとカラマツやブナが色づき、所々に漆の赤が混じりだし、ようやく秋らしい景色に変わってくる。  
【本谷橋】  
予想以上に早く、一時間半ほどで本谷橋に到着。 橋は新しくつくられたようでフワフワするが手摺もあり安心して渡ることができた。
 ここまで来ると標高は1800mを越えているため、時折小雨が降り奥山はガスがかかって薄暗い・・・まだ雪が降っているようだ。 
 橋の上流にある休憩ポイントにはたくさんの人が休憩しており、良い場所もなさそうだったのでここは休まずにこのまま登る。沢の反対側の屏風岩の裾を回り込むようにして登っていく。大きな石で造られた登山道はしっかりしているが急勾配だ。 
また岩が雨で濡れているため滑りやすく注意しながら登っていくが、橋から30分程の登りが結構きつい。 急勾配の樹林の中を息を切らしながら高度を上げていくと、本谷沢が遥か下に見えてくる。 この辺りまで登ると標高は2000mを越えているはずだ。
涸沢の全貌・正面は吊り尾根 16:00 紅葉は一段と鮮やかさを増してくるが、涸沢の深い谷間をガスガ大手いるため薄暗く感じる。  屏風岩を回り込んだ所で突然前方が開ける。
谷の奥にはガスに包まれて冷たく白い岩肌でこの谷間を遮るように「前穂高岳」と「吊り尾根」の姿が見える。・・久々の再会、感動でしばらく立ち止まり見つめてしまった。
【Sガレ】
 少し上のほうで三脚を構え写真を撮影している人がいた。 そこまで登ってみると、その場所はやはり絶好の撮影ポイントだった。 
 この辺りは”Sガレ”と呼ばれており、涸沢の谷間ががS字にカーブし林が開けた辺りの登山道が大きくガレいりことから、そう呼ばれているらしい。
 ガレ場の上に上ると涸沢の谷間が一望できる。 正面には雪化粧した穂高の岩峰が望める。 深い谷間はダケカンバと漆の紅葉が素晴らしい。

・・・ここで40分ほど撮影タイムをとる。  

夕闇迫る涸沢 (奥はガスに煙る涸沢岳)
【涸沢到着】
 ノンビリしていたら、だいぶ夕闇が迫ってきた。
最後の登りを気合を入れて登っていくと、先ほど一緒に写真を撮影していた若いカメラマンが立ち止まって息を整えている。 6・4.5の重いカメラと大型の三脚が荷物を重くしているようだ。
・・・私はそのパターンでバテたことがあり、最近は軽量のカーボン三脚とレンズも3本に限定しているので、ザックの重さは何とか15Kgに収まっている。
ガンバレ!・・と声を掛けて追い越していく。 

 涸沢に近づくにつれ、小雨がミゾレに変わった。 稜線から吹き降ろしてくる風が強まってきて、涸沢ヒュッテのある小山が目の前に迫る頃には、完全な吹雪になってしまった。
とりあえずヒュッテに逃げ込んだが、その頃外は唸りを上げるような吹雪になっていた。
 今日はテント泊の予定だったが、この吹雪で気力がなくなってしまい涸沢ヒュッテの玄関に泊めてもらうことにした。 同様の登山者が多かったのか超満員で予約客でも布団一枚に三人の鮨詰め状態、食堂・廊下も既に寝る場所は無い・・という状況だった。

涸沢と穂高の稜線(明かりは涸沢小屋)
【吹雪が去った後】  
 食事を済ませ寝場所を確保する。 玄関の板の間にやや広めのスペースを確保したが、どうやら布団も・シェラフも無さそうだ。 
・・・勝手に寝なさいということか!!
 しかし玄関のため近くにストーブがあり暖かく、大の字になって寝るスペースがあった。マットを敷き自前の寝袋に潜り込むと、ゆったりしてなかなか良い!!
先週調達してきた空気枕も役に立ちそうだ。

20:00 嘘のように吹雪が止んだ。
 カメラと三脚を担ぎ急いでテラス出てみると、風はピタリと止み上空には雲一つ無い夜空が広がっている!! 穂高の岩峰もはっきりとみえている。
・・しばらくすると東の空が明るみを増してきて、明神の頭あたりから煌々と月が昇り始めた。
 そして・・・穂高の山々が月明かりに浮かび上がっってきた。

北穂と降るような星空 (クリックで拡大)
21:00 
 冷え込んできたので一眠りすべく小屋に戻った。寝酒に熱燗を一杯!! これが最高に美味くグッスリ眠ってしまった。

3:00 
 玄関のため、バタバタと人の動きだした音で目が覚めた。 早々と支度をして外に出てみると既にテラスは満杯で、三脚が置かれ場所取りは終わってしまったようだ。仕方なく後方の高いところを確保して夜明けを待つ。 昨晩昇った月はもう穂高の稜線の上まで進んでいる。そこから照らしだされる穂高の峰峰は、神々しいとほどに美しく不思議な世界を映し出している。(左の写真をクリック) 
 しばらくするとザイテングラードにライトの明かりがチラチラと光っている。
どうやら昨日まで吹雪きで穂高岳小屋に足止めされていた人達が早々と下っている。

モルゲンロートに染まる奥穂・涸沢岳(右)
5:40 
 東の空が白み始め、奥穂の峰がモルゲンロートに染まり始めた。朝のイベントの始まりである。ヒュッテのテラスは人で溢れ、あちらこちらから感動のため息が聞こえてくる。・・数分で朝のイベントは幕を閉じ、涸沢に昨日降った雪が朝日に輝きだした。 昨日とは打って変わり素晴らしい天気になった。
 小屋の情報では、ザイテングラードの下辺りで積雪は15cmもあり凍結している様だ。 しかも、昨夜の吹雪のため前穂と吊り尾年付近に動けなくなっている遭難者が相当数いるようだ。天気が回復し漸く救助活動が始まるとのことだ・・。
 こんな状況のため今回はザイテンから涸沢岳登頂はきっぱり断念。 帰りのコースも安全な横尾経由で下ることにした。と言うことで朝はゆっくり、そして心行くまで写真を撮影する時間ができた。

  涸沢ヒュッテ上のテラス
6:30
 朝日が徐々に涸沢のお椀の底にも当たりはじめたが、ヒュッテのテラスまで来るにはもう少し時間がかかりそうだ。
寒さで体が冷えてきたので湯を沸かして朝食の準備にかかる。

 準備をしながら刻々と変わっていく景色を楽しむ。
谷間に朝日が日が差してくるとナナカマドの紅葉が鮮やかさを増してくる。 ザイテン下では真赤な紅葉が雪の中に点々と輝いていて、朝日がその赤さを強調する。
8:00
 素人カメラマン達が忙しそうに三脚を担いでポイントを移動している姿を横目で見ながら熱い味噌汁で食事を済ませ、周りの人達との雑談に花が咲く。
 食後に入れた本格的なコーヒーの香りが辺りに漂う・・。
 熱い味噌汁とオニギリと果物だけの食事だったが、この壮大な景色と稀に見る三段紅葉を眺めながら飲むコーヒーは、この上ない贅沢な気分を味あわせてくれる。

 
穂高の稜線は新雪で白銀に輝き、涸沢は真っ赤なナナカマド、涸沢の下部はまだ色付いていない緑色。・・これが”10年に一度”と言われる「涸沢の三段紅葉」だが、天候の関係で、これを見ることができるチャンスはそのシーズンに1ー2回だけ、今シーズンも多分 ”今日一日だけ” の景色になるだろう。

ナナカマドの紅葉
8:30
 山小屋を後にする。 
いつもなら僅かな人しか行かないパノラマコースに、登山者が行列をつくっている。
どうやら戻ってくる人とのすれ違いで渋滞を起こしているようだ。
 最近はインターネットなどで情報を集め行動の参考にする傾向が強く、その影響だろうか?・・・後から聞いたことだがこの日にパノラマを下った人が数人怪我をしていたようだ。
 我々は涸沢の下部にあるナナカマドの紅葉を入れ三段紅葉の景観を撮影しようと横尾方面へと下る。 まだ緑色の葉も多いが、場所によっては真っ赤なナナカマドの群生がありイメージした写真が撮影できた。
10:30
 新雪に青白く輝く奥穂高岳・涸沢槍を振り返りながら涸沢を後にした。

涸沢岳

奥穂高岳